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千葉家庭裁判所 昭和38年(家)1078号 審判 1964年2月28日

申立人 小川典子(仮名) 外三名

主文

本件申立はいずれもこれを却下する。

理由

本件申立の要旨

一  申立人小川等三名代理人は

イ、被相続人亡下田くみは、独身で他に何等の係累もなく、和服仕立物を業とし、全く孤独の生活を続けていたが、昭和三六年一〇月脳溢血のため倒れた。

後意識は回復して明瞭となったが、右半身不髓となり、且つ言語も不自由となって床についたままの状態となった。

ロ、申立人等は近所に住んでいた関係もあり、申立人利男の母ふさ(当八二年)とは、若い頃から姉妹のように親密な交際を続けており、下田が脳溢血で倒れた後は、小川ふさは勿論のこと、申立人等は一家を挙げてできる限り懇切な看病を続けた。

ハ、また下田くみは、生前から身分上、財産上の一切のことについて、小川ふさや申立人節子と相談していた関係もあって、発病後、自分の死後遺産について、平素全く見向もしない縁者等が争を起すことを心配した結果、申立人利男、節子に対して、適当な養子を迎え、自分の財産全部をその養子に贈与したいから、養子を探して欲しいと依頼した。

そこで申立人利男等は、そのめいに養子となることを交渉したが、同人やその両親の承諾を得るに至らなかった。ところが下田くみは、自分の命がいくばくもないことを自覚したのか、申立人利男、節子に対して、申立人典子を養子として全財産を贈与する旨述べ、その一切の方法を一任したので、申立人利男等はこれを承諾し、申立人典子は未成年者であるため、千葉家庭裁判所に対し、養子縁組許可の申請手続をした。しかし、下田くみは養子縁組の許可前である、昭和三七年四月一二日に死亡したため、上記養子縁組許可申請は失効となった。

ニ、しかしながら、前に述べたように、亡下田くみには相続人がなく、且つ申立人典子以外には受遺者もなく、また相続債権者もないのであるから、下田くみの相続財産は、改正された民法第九五六条の三に従い、被相続人の療養看護に努めた者、及び被相続人と特別の縁故があった者に与えらるべきであるところ、申立人等は一家を挙げて、被相続人下田くみの療養看護に当ったものであり、且つ申立人典子は、下田くみの死亡により、同人の養子となることは、できなくなったが、下田くみが定めた事実上の養子であって、特別縁故者でもある。

ホ、従って申立人等は改正民法の規定により、別紙目録記載の本件相続財産(不動産のみ)を受くべき、権利がある。

二、申立人大田行男は、被相続人下田くみの、相続財産管理人であるが、下田くみには法定の相続人がなく、民法所定の公告手続を完了したが、相続人である権利を主張する者がないので、別紙目録記載財の相続財産の一切を、申立人大田に分与されたい。

というのである。

当裁判所の判断

当庁昭和三七年(家)第三三一号養子縁組事件記録、昭和三六年(家)第三二号相続人搜索事件記録、調査官作成の各事実調査報告書等を綜合してみるに、被相続人下田くみに対する相続人搜索の公告等、民法所定の手続を完了したが、相続人である権利を主張する者がなかった事実が認められる。

しかしながら、

イ  申立人小川典子は昭和二四年一月一日生れの中学生であって、被相続人下田くみの療養看護に努めた事実は認められない。もっとも、昭和三七年三月一七日下田くみ名義で、申立人典子を養子とすることの審判申立がなされているが、同月三〇日調査に赴いた調査官の問に対しては、ただうなずくのみで、養子縁組の審判申立が、果して真意に出でたものか、否かは、知る由もなかったが、下田くみは、昭和三六年一〇月二〇日脳溢血で倒れて以来、昭和三七年四月一二日の死亡に至るまで、右側半身不髓で、全然口がきけず、自ら進んで意思表示をすることができなかったのみでなく、養子縁組の如き複雑な問題については、意思決定の能力がなかったものと認定するのが相当である。

従って前記養子縁組の審判申立は、下田くみの真意に基くものと認定することはできないし、またこのことを除いては、申立人典子が下田くみの特別縁故者に該当する事実は存在しない。

ロ  申立人小川利男は、被相続人下田くみと古くからの知合であり、下田くみが病気となるや、看護人の雇入等、その療養看護につき、何かと指図をしていた事実は認められるが、下田くみの療養看護をなした者には、申立人利男以外に、吉村しの及び近隣の人々があり、事実上療養看護をしたのは、むしろこれ等の人々であり、申立人利男のなした前記行為は、被相続人と懇意である近隣の人々であれば、何人もなし得る程度のものであって、この程度の行為をなしたとて、民法第九五八条の三第一項の被相続人の療養看護に努めた、いわゆる特別縁故者に該当するものとは認められない。

ニ  申立人小川節子は、被相続人下田くみを知っている程度であり、下田くみの療養看護をなした事実が認められないことは勿論、病気を見舞った事実すら認められず、その他下田くみの特別縁故者に該当する事実は存在しない。

ホ  申立人大田行男は、本件相続財産の管理人であり、且つ下田くみの従弟に当る事実は認められるが下田くみは、未婚の変り者で、ほとんど親類つき合もせず、申立人大田もその例外ではなく、下田くみより交際を絶たれていた事実が認められるし、その他下田くみと特別縁故関係にあった事実は存在しない。従って、申立人大田は単に下田くみと四親等の血族関係にあったに止まり、民法第九五八条の三第一項所定の特別縁故者には該当しない。

以上のように、本件各申立人は民法第九五八条の三第一項所定の特別縁故者に該当しないので、本件各申立を却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 尾崎力男)

別紙

物件目録

(1) 船橋市海神町○丁目○○○番

一、宅地 六一坪

(2) 同所同番地

一、木造瓦葺平家建居宅 一棟

建坪 一八坪九合七勺

(3) 家財道具一切

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